焚書を始めたAmazonにその見解を質すしたけど…

Amazon.co.jpでは既に取り扱いを禁止している児童ポルノを想起させる商品に加え、以下に該当するようなアダルト商品の取り扱いを、今後中止することにいたします。また発見した場合は直ちにカタログの削除を行います。
・違法性、残虐、虐待をテーマにした商品、または著しく嫌悪感を催すような商品
―「残虐表現」「ドラッグ」「鬼畜系」「食糞」「獣姦」等の残虐表現を含むもの


また商品登録の際に下記の文言を「キーワード」に登録することを禁じます。
―「レイプ」「強姦」「輪姦」「暴行」「乱暴」「凌辱」「虐待」「残虐」「食糞」「獣姦」「ドラッグ」「鬼畜」
その他著しく残虐または嫌悪感を催すような表現


上記に該当する商品の登録や、キーワードの登録があった場合は商品を削除させていただき、また削除にも拘わらず同じ商品を再度登録されたり、禁止されたキーワードを再度登録されたりといった状況がある場合、今後の取引をお断りすることもございますので、予めご了承くださいませ。

http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51404352.html

日本でもネット販売で圧倒的な支配力を誇るAmazonが、日本向けサイトであるAmazon.co.jpにて上記のような通知を一部の出版社・ソフトウェアメーカーに送ったとのこと。


Amazonは、Webショッピングの世界王者として君臨するかたわら、1Click特許などで自身以外のWebショッピングの発展を阻害し、さらに特許をネタにして商売敵から小銭をゆすり取って見せしめを行うなど、支配力の維持拡大に努めてきた*1。その甲斐あってか、弱小リアル書店は次々に廃業に追い込まれ、Web書店のデファクトとも言える地位を築いている。

もちろん、消費者により受け入れられるサービスをより安く提供する存在が、そうでない古い存在を駆逐するのは資本主義社会の鉄則だ。それによってシェアを拡大する事はむしろ賞賛に値する事だ(特許はそうではないが)。しかし、デファクトとも言えるほどの支配力を持てば、相応の社会的責任を負うというのが現在の社会的共通認識だろう。


書店は表現物によって利益を上げる存在である。その書店、とくに大規模書店にとっての社会的責任と言えば、何を差し置いてもまず表現の自由を担保し、出版物を差別なく流通させることではないか?それなのに、いったいこれはどういう事なのか。


一見しただけでは、これらの制限自体が社会貢献であるかのように誤認する人もあるだろう。しかし、よく見て頂きたい。たしかに、ここに掲げられた行為の多くは、それを実際に行えば被害者が発生する犯罪行為である。そのため、それら実際の行為の実録作品を制約するというなら話は通じる。しかし、Amazon.co.jpがやっている事はそうではない。現実にAmazon.co.jpが制約しているのはフィクションであり空想であり、被害者もいなければ犯罪でもない、表現作品の規制である。Amazon.co.jpがやっている事は、表現の世界に公然と差別を持ち込んでそれを市場支配力によって社会に強制する事に他ならない。

さらに、これが社会貢献どころか、差別以外の何物でもない証拠が、上記に「食糞」「獣姦」のキーワードが並んでいるという事実だ。これらには被害者はいない。これらを禁ずる事は、本国アメリカのキリスト教的観念をベースとした、価値観の強制と性嗜好差別でしかない。「同性愛」がここに並んでいないのは、ひとえにゲイの活動家達の活躍の賜物に過ぎず、それがなければ当然のようにここに並んでいただろう。キリスト教徒でなくてもそれらに嫌悪感を抱くと言う人もも多いだろう。では、この制約は、そのような消費者を保護するための措置だろうか?否、それは全くあり得ない。

なぜなら、Amazon.co.jpにおけるすべての商品はユーザが自ら選択して表示させるのであり*2、コンビニのエロ本のように、嫌悪感を抱く人の意に反して目に入る事は元々あり得ないからだ。いうなれば、完璧なゾーニングが既にされている訳だ。それなのに、いまさら禁ずるというのは、嫌悪感を抱く人達に取ってのメリットにはならない。第一、「健全」な商品だけで商売をしたいなら、アダルト商品の一切の取り扱いを止めればいいではないか。「正常」な嗜好のアダルト商品だって、望まぬ女性にとっては嫌悪感の元である。それなのに、一部の嗜好のみを禁じて、アダルト商品全般は取り扱いを続けるというのが、差別でなくていったい何であろうか。


と言うわけで、Amazon.co.jpに対して、その見解を質すメールを送る事にする。市場支配力と社会的責任、表現の自由に対する認識を問う。回答が来たら、本ブログで紹介する。

Amazon.co.jp PRご担当者様


御社のサービスをいつも便利に使わせて頂いております。
さて、御社の取引先に対する行為に関して以下のような情報が流れております。


http://www.adachi.ne.jp/users/showaben/NewFiles/nikki.html によりますと、
御社は『「残虐表現」「ドラッグ」「鬼畜系」「食糞」「獣姦」等の残虐表現を含むもの』の取り扱いを中止し、取引先に対して、
『「レイプ」「強姦」「輪姦」「暴行」「乱暴」「凌辱」「虐待」「残虐」「食糞」「獣姦」「ドラッグ」「鬼畜」その他著しく残虐または嫌悪感を催すような表現』のキーワード登録を禁止し、該当の商品やキーワードの登録を繰り返す場合には取引停止を行う旨、通知された事になっております。


ご多忙のところ恐縮ではございますが、これに関し、以下について御社のご見解を頂きたく、よろしくお願いいたします。



(A)上記の様な通知を御社が行ったという事は事実でしょうか。

(B)(A)が事実でない場合、上記ページで紹介されている商品を、Amazon.co.jpで取り扱い中止にした理由は何でしょうか。また、その理由への該当有無の基準・ガイドラインはどのようなものでしょうか。

(C)御社は、書籍と始めとした流通において、他の追随を許さない圧倒的なシェアを持つ企業であると存じます。御社は、企業として法令遵守以上のなんらかの社会的責任を果たすべきとお考えでしょうか。

(D)(C)に関連し、巨大な御社が取り扱う商品を選別する事によって、作品の社会への流通に大きな影響を及ぼす事に関してどのようにお考えでしょうか。

(D)御社は、表現の自由、および差別についてどのようにお考えでしょうか。それと、御社の社会的責任に対するお考えはどのように関係するでしょうか。

(E)Amazon.co.jpは、一般商品とは明確に分離された形でアダルト商品を取り扱っています。そのうち、上記のような特定の性嗜好の作品のみを排除する理由を教えて下さい。

(F)上記の禁止条件には、被害者が発生しない・犯罪ではない性嗜好が含まれています。それらを排除する理由を教えて下さい。

(G)上記の禁止条件には、同性愛や不倫が含まれていません。それらが排除されない理由を教えて下さい。


ありがとうございました。上記の情報が誤りである事、または、御社が特定の嗜好に基づく差別を廃して、社会と共に発展される事を希望致します。
なお、本メールに対するご回答は、その有無を含めてWeb等にて公開させて頂きますので、あらかじめご了承をお願い致します。

(追記)回答が来た

Amazon.co.jpにお問い合わせいただき、ありがとうございます。

現在当サイトでは、取扱商品の見直しを進めております。今回お問い合わせいただいた件につきましては、サイト上で検索いただけない場合に、取り扱い見直しの対象商品となっていることが考えられます。

現時点では見直し段階のため、お客様よりいただいたお問い合わせについて、具体的な返答は控えさせていただきますが、このようなご意見をいただいたことは担当部署に報告させていただきます。

Amazon.co.jpにお問い合わせいただき、ありがとうございました。

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Amazon.co.jp カスタマーサービス ○○
http://www.amazon.co.jp/

※不明点の確認やお問い合わせはこちらのページからが便利です
http://www.amazon.co.jp/help/
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即日のお約束回答でした。

(追記)問題点:私企業は法に触れなければ差別を推進してよい?資本の論理は、マイノリティを救える?

ブコメで、過剰反応じゃ?との声もあったので補足。確かに企業は営利のための私的な存在であり、法に触れなければ違法ではない(当たり前だけど)。


しかし、その辺のちっこい店のヤジが何かするのと、圧倒的なシェアで業界に君臨するAmazonがやるのとでは社会的な実影響の規模が全然違う。シェアに応じて、(法ではない)道義的な意味で社会的責任があると考えるのはおかしいだろうか。おかしいというなら、なぜAmazonは、この機会に同性愛系書籍も一緒に排除しなかったんだろう。そんな事をしたら、同性愛の活動家から差別的企業として社会的責任を問われるからではないだろうか。つまり、Amazonは社会的責任がある事を自覚しつつ、声を上げぬ弱いマイノリティの差別を敢行しているわけだ。


自由競争の経済なのだから、Amazonが勝手に売り上げを落すだけという論理もある。しかし、差別されるのは常にマイノリティであり、Amazonへのダメージはまったく軽微だ。だから、Amazonはこのような差別行為を敢行しているわけで、資本の論理で差別的企業が淘汰される事はない。きちんと批判の声を上げなければ、差別行為はし放題なうえ、業界圧倒的No.1がそんな具合では下手をしたら業界に差別フォロアーが現れないとも限らない。

*1:ちなみに、1Click特許は数年を経て結局そのほとんどが無効とされた http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20359020,00.htm

*2:リコメンドもあるが自分の選択をベースとしており、かつアダルトは別枠