酒井法子「容疑者」の写真が有害な訳&毎日新聞社への凸

ui_nyan 逮捕状前 http://bit.ly/10VSxY 逮捕状後 http://bit.ly/zf7Ct link

http://twitter.g.hatena.ne.jp/maname/20090807/1249639356

これは勉強になります。
やっぱプロは違うわ。

白い酒井法子さん

黒い酒井法子さん

http://birthofblues.livedoor.biz/archives/50884771.html

絵に描いたような印象操作報道。

ブクマでは何が問題?とか言ってる者が少なくないようで驚く。

害その1: 「普通の推測」は、だいたい当たるからこそ危険

まず先に教科書的な事を一応言っておく。


たしかに、今流れている情報から常識で考えれば彼女は「クロ」と考えるのが「普通の推測」である。自分の「普通の推測」も「彼女はクロ」だ。そして「普通の推測」は、それなりの情報が流れていれば通常は当たっている場合が多い。だが、だからこそ、予断を持つ事が危険な訳で。推測する側にとっては取るに足らない極少数の例外は、当事者にとっては人生を破壊される出来事である。

これらは、ホンの氷山の一角に過ぎない。日本では、起訴さえされてしまえば、事実上必ず有罪になる。「普通の推測」でクロと思われて起訴できるような事例は、実際の事実に関係なく、警察は自由に事件を作り上げる事が出来る。「普通の推測」は危険なのだ。


このように、事件に関連して「解っている事実」を伝えるだけでも危険な「普通の推測」を招くにも関わらず、事実ですらない印象操作を行って被疑者にレッテルを貼り付ける事が、なにゆえ正しいだろうか。

害その2: 印象は、それ自体が既に有害な単純ステレオタイプに嵌められている

そしてそれ以上に問題なのは、「容疑者・犯人」に対する単純なステレオタイプを刷り込む事だ。単純なステレオタイプは、「容疑者・犯人」に対する切断操作を無意識に行わせ、認識を単純化させる。逮捕状が出る前と後で、酒井法子が別の人格に変わった訳ではない。今回の2枚の掲載写真の違いは、マスコミがいつも通りに

  • 「容疑者・犯人」=「悪い奴」

という単純なステレオタイプに、事を押し込めた結果だ。今回はこのように際立った対比が生まれたが、通常の事例では容疑者になる前の「白い」写真は報道されない。このようなステレオタイプが生むのは、上記のような冤罪の危険だけではない。

「黒い」写真に象徴される、切断操作と思考停止
  • 『「容疑者・犯人」=「悪い奴」』 → 『「容疑者・犯人」は、善良な俺たち/私たちと別世界の「モノ」』

容疑者逮捕時のニュースにありがちな、近所の人の「そんな人には見えなかったのに」とのコメントも、まさにこのステレオタイプによる思考停止に他ならない。「そんな人」ってどんな人だ? 近所の人が見ていた「その人」は、「その人でなかった」のか?そんな事はない。「その人であって、かつ、法に外れた行為もした」という事に過ぎない。「別世界の「モノ」」ではなく、まさに「その人」が「法に外れた行為もした」事に問題の核心があるはずだ。「別世界」ではなく「我々」の延長だからこそ、真剣に考えるべきであるはずだ。にも関わらず、そのような切断操作は問題の理解を遠ざけてしまう。

「黒い」写真が隠蔽してしまう、本当の「悪」と改善への道

そしてさらに、法は完全ではありえない。完全であれば立法府たる国会は不要である。完全ではないどころか不備だらけである。ほんの10年ほど前まで、国家が差別を強制する複数の法律が有効だったし、そこまで行かなくても、多くの法律にはさまざまな議論がある。

「容疑者・犯人」すなわち「違法行為者」である事が、悪いかどうか、は、議論があり得ると言う事だ。

DEATH NOTEの小畑健も、キャンプ用十徳を所持していた事が銃刀法違反にあたり逮捕されている。確かに十徳に銃刀法の規定に該当する刃物もついていたらしいので、小畑健は「容疑者・犯人=違法行為者」ではある。では、キャンプ用品を持っている者は「悪い奴」なのか?

『「容疑者・犯人」=「悪い奴」』というステレオタイプを外して素直に考えれば、本来望ましい取り締まり対象は銃や刃物で他者に危害を加える事である。通常の生活で道具として所持される物を一律に違法にする事(軽犯罪法と併せると、普通のハサミやカッターやちょっとでも刃がある道具も持ち歩くと原則違法行為になる)にそもそも問題がある。もちろん線引きの方法は難しいが、少なくとも警察の恣意に任せて危険と関係ないキャンプ用品の車載で逮捕する事は、社会に利益とはならない。

にも関わらず、このときもマスコミは事を『「容疑者・犯人」=「悪い奴」』のステレオタイプへ押し込み、キャンプ用十徳を「ナイフ」「アーミーナイフ」と表現し、車内に仕舞ってあったのを「隠し持っていた」などと言って、「容疑者」の反省を誇らしく報じている。本来、法の不備を議論する絶好の機会であったはずだが、ステレオタイプと思考停止がその機会を潰し、またひとり不当に「悪い奴」が作り上げられた。


そして今回についても、議論の余地はありえる。もちろん、覚醒剤使用を肯定する人は少ないだろうが、ではなぜ悪いかを覚醒剤取締法を抜きに考えると、単に政府や警察のキャンペーンや教育によって悪い物だ思わされているだけと言う事はないだろうか。

例えば「成人が自分の判断で自分に使ってアホになるのはそいつの勝手ではないか」という考え方もありえる。「覚醒剤取締法が存在しなければ、酒井法子は容疑事実によって誰かに迷惑を掛けたのか?」と。
それに対しては、「お前はアヘン戦争をしらんのか、社会に蔓延したらどうなるんだ」と言う者があろうし、そうすれば、「では悪いのは各個人の使用ではなくて社会に蔓延する事であって、酒井法子は悪いというより蔓延防止措置による哀れな被害者ではないか」と言う者も出るかも知れない。


その議論がどうなるかは解らないが、少なくとも『「容疑者・犯人」=「悪い奴」』の単純なステレオタイプよりは、問題を深く捉える事に繋がるだろう。


マスコミに見解を聞いてみる

と言うわけで、毎日新聞社に対して、これに関してその見解を質すメールを送る事にする*1。回答が来たら、本ブログで紹介する。

行方不明の酒井法子さんに覚醒剤使用容疑で逮捕状が出て、御社でも報道をされていますが、容疑者になる前と後で明らかに意図的に異なる写真を掲載しています。


「酒井法子さん」 http://mainichi.jp/photo/news/20090805k0000e040058000c.html

「酒井法子容疑者」 http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090807k0000e040045000c.html

質問1
これらの写真は明らかに同一のイベントで連続的に撮影されたものであり、選択の意図なくこのように掲載されるはずがありえないものです。どのような意図でこれらの写真を選択されたのか教えて頂けますでしょうか。

質問2
一般に「容疑者」について、報道において、読者に犯人であるとの予断を抱かせうる事やそれに繋がる悪印象を持たせうる事について、望ましい事か、すべきでない事か、どうでもよい事か、御社のお考えをお聞かせ頂けますでしょうか。

質問3
紙面やWebなどへの「容疑者」の写真の掲載について、サイコロを振って選ぶなど作為の入らない方法で選択しているか、そうでないか、どちらであるか教えて頂けますでしょうか。後者である場合、実際に選択者たちはどのような基準で選択をしているか教えて頂けますでしょうか。

質問4
紙面やWebなどへの「容疑者」の写真の掲載について、その選択基準について、指針やガイドラインの様なものがありましたら教えていただけますでしょうか。

質問5
紙面やWebなどへの「容疑者」の写真の掲載について、今後その選択に影響しうる、御社におけるアクションは実行または予定されていますでしょうか。差し支えなければ、可能な範囲で教えていただけますでしょうか。


なお、ご回答については、ブログなどで公表させていただく場合がありますので、ご了承ください。


なお断っておくが、このエントリで非難していることは、決して毎日に限った傾向ではないと認識している。ただ、たまたま今回、毎日があまりにも露骨にわかりやすい形で事例を作ってくれたので、代表例としているに過ぎない。

(追記2)まとめ

記事の表現力不足を感じたため、恥ずかしながら、自ら記事のまとめを。

  • 事例:酒井法子の記事に添えられた写真が、行方不明記事では好印象の笑顔の写真だったが、「容疑者」になったら悪印象の仏頂面の写真が使用された。
  • 主張:「容疑者」に対して無思考に悪印象を付与する事は有害である。
    • 問題1:「容疑者=違法行為者」とは限らない。冤罪の危険。推測する側には稀な例外であっても、当事者には甚大な被害
    • 問題2:事件に対する単純な決めつけによる、問題理解の阻害・当該者への不当評価
      • 「違法行為者=彼岸の存在」としてはならない。切断操作と思考停止を招き、現実の事件・容疑者に関する理解が阻まれ、我々の世界の事として向き合う事を阻害する。
      • 「違法行為者=悪い奴」とは限らない。法律側の不備不当などの可能性の検証が阻害される。法律側の不備不当などの場合、「容疑者」は「悪い奴」ではなく不備不当などによる「被害者」でありえるにも関わらず、その名誉回復の機会が絶たれる。
  • アクション:この明確な事例を機に、その行為と背景に関する見解を質す

(追記)ブクマに反応

意図して印象操作をしたんじゃなく、無意識に選んだ結果では?
印象操作が自覚的に行われるとは限りません。このようなステレオタイプへの押し込みを「無意識に」行われているとすれば、それこそが、問題がより根深く蔓延してしまっているということだと思います。
毎日/マスコミを叩きたいだけだろう
まず、毎日のはあくまで分り易い事例に過ぎず、問題は決して毎日限定のものではありません。また、受け手の自覚は、まさにこの記事の意図するところです。本記事の内容が不当なクレームと考えるのであれば、それを具体的にご指摘願います。
「容疑者」の写真は当然内容に合わせて選んで悪そうなのになるだろう
その発想こそが決定的に問題だと指摘している記事です。文筆力不足なのはすみませんが、記事の中盤あたりから再度お読みいただけると幸いです。
爽やかな容疑者写真だと不謹慎とクレームする者があるだろう
なるほど。これはまさに『「容疑者・犯人」=「悪い奴」』というステレオタイプが深層まで染み込んでいるという問題だと思います。ステレオタイプをまき散らした上に、事なかれ主義でそのような不当なクレームに応じるマスコミも、ステレオタイプを強要する受け手も、等しく問題を自覚して改めるべきと思います。
酒井法子「容疑者」の写真が有吉な訳
その発想はありませんでした。

*1:既に本人が出頭済だが、メールを送ったのはそれより前