著作権をむやみに伸ばすべきというのが、発想の根本からおかしい理由

現役官僚のはずのid:bewaadが、どうにもそれらしくないトンデモな意見を書いて注目を集めている。

たとえばAさんが会社を興して子孫に株式を遺したとします。その子孫の株式が、死後一定期間経過後に‐それが50年後であれ70年後であれ‐勝手に消滅してしまう、なんてことはあり得ません。ところが、Bさんが著作物を創作して子孫に著作権を遺したのであればどうでしょう? そのあり得ないことが起きてしまうのです。

http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20091125/p1

単純に他の財産権と比べて、著作権だけ権利が消滅するのはおかしいという理屈。さすがにネタだと思いたい。何がネタかと言えば、発想の根本がおかしいからだ。


なぜ、他の財産権が消滅しないのか。それは、そう言うルールが社会に最も利益をもたらすからというだけの話。ただし、付帯条件としてみんながそれなりに納得の上で。


株券が一定期間経過後に自動的に消滅しないのは、そんな事があったら会社を興そうという人も居なくなって社会の活性は落ちるし、株式市場もおかしな事になって経済も大変になる一方、消滅させることでそれらを上回る社会的利益が存在しないから。それがメリットを最大化するから、消滅しないルールにしているに過ぎない。


それぞれの権利をどの程度に設定するのか、と言う問題は、それぞれの権利に関連する社会影響と関連する様々なパラメタによって決まるもの。それぞれ個別の権利について個別のバランスが存在する。それらの前提条件を無視して単純比較するのは、「競馬の掛け金は数分で何倍にもなるのに、普通預金は1年預けても1%も増えないのはおかしい!」と嘆くようなものだ。


実際、著作権法はその第一条で、その目的を以下のように定義している。

第一条  この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

「文化の発展」が目的であって、著作権者の保護はその手段に過ぎない。つまり、国家の文化の発展というグランドデザインがまずあって、著作権の有効期間はその実現のための手段として議論されるべき事項。


知的財産は、生まれる事ではなく使われる事で社会に利益をもたらす。ニュートンほどの知的成果を上げた人物ですら、巨人の肩に乗ったにすぎないと言った。仮にユークリッドの数学が知財の壁に阻まれて、ニュートンに届かなかったとしたら。そのような制度設計をする者を「権利の公平さを守った賢人」と褒める者は居ないだろう。